1. 18,000円の手切れ金
このブログ『Sync.』を立ち上げるにあたり、私は試行錯誤していました。
国内で最も評価の高いWordPressテーマ「Swell」を購入し、適用し、そして静かに削除したのです。
誤解しないでいただきたいのですが、Swellは本当に素晴らしいプロダクトです。
SEOに必要な機能は完璧で、デザインも美しく、誰でもプロのようなサイトが作れます。現代のウェブで戦うための「フルプレートアーマー(全身鎧)」と言ってもいいでしょう。
しかし、その鎧を着た瞬間、私は鏡に映った自分の姿を見失ってしまったのです。
検索結果を見渡せば、同じ鎧を着た兵士たちが、同じ陣形で並んでいます。
整ってはいるけれど、そこには「個」の匂いがありませんでした。
私は、Google検索が好きなんです。
だからこそ、これ以上「Googleに気に入られるための均質化されたコンテンツ」を増やしたくないと思いました。
18,000円は、決して無駄金ではありませんでした。
それは、今のSEO(検索エンジン最適化)がいかに「過剰装備」であるかを知るための、必要な授業料だったのだと思います。
私は鎧を置き、テキストエディタを開き、真っ白な画面に <html> と打ち込みました。
それは、私が私であるための、最初の一歩でした。
2. Googleが抱える、構造的な憂鬱
私たちが愛してきたGoogle検索は今、深いジレンマの中にいるように見えます。
- 収益の宿命: 彼らは広告企業です。広告が多く貼られたページを優遇すれば、ビジネスとしては正しい選択です。
- ユーザーの離反: しかし、検索結果が「広告を見せるための記事」で埋め尽くされれば、ユーザーは静けさを求めてChatGPTやPerplexityへと去っていくでしょう。
この矛盾に、Google自身も苦しんでいるはずです。
だからこそ彼らは今、アルゴリズムを必死に調整し、「Hidden Gems(隠れた宝石)」を探し求めているのです。
SEOハックで厚化粧されたサイトではなく、不器用でも、独自の視点と体温を持った「個人のログ」を。
Googleを救うのは、アルゴリズムの隙をつくSEO業者ではないのかもしれません。
損得勘定抜きで、ただ純粋に言葉を紡ぐ私たちのような「個人」なのだと信じています。
3. 「眼(Bot)」から、「脳(AI)」への進化
私が「素のHTML」を選んだ理由は、精神論だけではありません。極めて合理的な勝算があります。
それは、ウェブを巡回するクローラーの質的変化です。
かつてのGooglebotは「スキャナー」でした。
キーワードの出現率やリンク構造といった「記号」を読み取っていました。だから、人間には読みづらくても、ロボット向けに装飾されたサイトが勝つ時代があったのです。
しかし、2025年の今、検索エンジンの裏側にいるのは「AI(脳)」です。
GeminiやGPTBotといった次世代のクローラーは、「読書家」です。
彼らは、文章の「文脈」を読みます。論理の「美しさ」を理解します。
彼らにとって、過剰な装飾、ポップアップ、複雑に入り組んだ <div> タグの巣窟は、読書の邪魔をする「ノイズ」でしかありません。
4. 1998年の予言「A List Apart」
Webの歴史を紐解くと、今の状況を予言していたかのような哲学に出会います。
1998年、ジェフリー・ゼルドマンらが提唱したWebマガジン『A List Apart』です。
彼らが掲げた「Web標準(Web Standards)」の教えは、驚くほどシンプルです。
「構造(HTML)と表現(CSS)を分離せよ」
見た目を整えるためにHTMLを汚してはいけない。
HTMLは、文書の構造(ここは見出し、ここは本文、ここは引用)を伝えるためだけに使え、と。
当時は「ブラウザの互換性」のために叫ばれたこの哲学が、AI時代の今、「Machine Readability(機械可読性)」という新たな価値を帯びて蘇ります。
正しいタグで書かれた、装飾のないシンプルなHTML。
それは、AIという新しい読者に対する、最大のおもてなし(UX)となるのです。
5. 荒野に立つ矜持
だから、プロジェクト『Sync.』は荒野に立つことを選びました。
このサイトのソースコードには、追跡スクリプトも、過剰なJavaScriptも、装飾用のタグもありません。
あるのは、研ぎ澄まされたHTML構造と、言葉だけです。
これは、Googleへのラブレターなのです。
「私たちは、あなたの本来の能力(Essence)を信じている」というメッセージです。
いつかGoogleのアルゴリズムが完全にAI化し、ノイズをかき分けて情報の「純度」だけを評価する日が来るでしょう。
その時、検索結果の海から浮かび上がるのは、SEOハックされた記事ではないはずです。
私は、HTMLというナイフ1本で戦う記事であってほしい。
検索は、もっと静かでいい。
私は、その日が来るのを、この場所で発信して待とう思います。